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経済資本主義だけじゃない!
地域、つながり、自然環境を軸に打ち出す「鎌倉資本主義」
新しい「日本型経営のカタチ」

(面白法人カヤック社長 柳澤大輔氏)

柳澤大輔氏 x Future Society 22

「面白い」を主軸にWebコンテンツ事業を手がけて創業20年。上場企業で唯一、鎌倉に本社を置く面白法人カヤック。そんなカヤックが近年、次なる展開を見せている。「鎌倉資本主義」を提起し、地元・鎌倉のコミュニティと共に新しい社会システムの在り方を問おうとしている。経済資本に加えて地域、つながり、自然環境を軸に打ち出す鎌倉資本主義は、Future Society 22が未来に見据える「共感資本主義」と相通じるものがある。「面白いのがいい、鎌倉がいい、という論理が最近になってようやくそのまま通るようになってきた」と語る創業メンバー・代表取締役CEOの柳澤大輔氏に話を聞いた。

――面白法人カヤックは神奈川県の鎌倉という土地にこだわり、本社を鎌倉に置いています。東京都心から約1時間で到着するとはいえ、効率性の観点から考えると疑問視する声もあるかと思います。より便利な土地に本社を置いた移動したほうが、企業経営としてはメリットが得やすいはずです。それでもあえて鎌倉という土地にこだわっている理由は何でしょうか。

柳澤:僕らは「面白法人」と称して、企業経営やサービスでも“面白さ”を前面に押し出していきました。「どうして“面白さ”なんですか。やはり、面白い方が仕事の生産性が上がるんですか」とか、「効率がいいし、社員の成長が速いんですか」とかよく聞かれました。

でも、僕らは創業した20年前から「いやいや、そういうわけじゃなくて、単に面白く働きたいからです」と回答していました。2014年に東証マザーズに上場してからも、一貫して同じことを言っています。

柳澤大輔(やなさわ・だいすけ)

面白法人カヤック代表取締役CEO。1974年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。1998年、学生時代の友人とともに面白法人カヤックを設立。2014年に東証マザーズに上場。鎌倉に本社を構え、ゲームアプリ、キャンペーンアプリ、Webサイトなど、オリジナリティのあるコンテンツを発信。ユニークな人事制度、斬新なワークスタイルを導入し、「面白法人」のキャッチコピーのもとで新しい会社のスタイルに挑戦中。2013年、鎌倉に拠点を置くベンチャー企業の経営者とともに地域団体「カマコン」を立ち上げ、地域コミュニティの活性化に取り組む場を提供している。2017年10月に建長寺で「鎌倉資本主義を考える日」を開催。地域に根ざした新しい経済活動のモデルづくりに取り組んでいる。

時代がGDP偏重を疑問視し始めた

柳澤:「なんで鎌倉にいるんですか」というご質問ですが、それも同じで、「鎌倉にいたいからです」という回答になるんです。別に生産性が高くなるからやっているわけじゃなくて、それが面白いと思うし、そうしたいから、やっている。ただそれだけなんです。

こういう理屈は20年前だとそのまま通ることが少なかったのですが、最近はだいぶ通るようになりましたね。社会の潮流がこのような価値観をそのまま受け入れるようになったということだと思います。それが、最近になって少しずつ議論されている「GDPだけで人間社会の幸福や成長がすべて説明できるのか」といった話題と全部リンクしているんだと思うんです。

――昨年(2018年1月)、柳澤さんは『鎌倉資本主義』(発行はプレジデント社)という本を出版されました。そこにつながるお話しでもありますね。

柳澤:はい。ここでは「地域資本」という考え方をベースに、地域を中心とした新しい資本主義の形を紹介しています。

もともと会社を経営する中で、利益を出すのは面白いと思っていました。でも人や社会の幸福を考えたときに、それだけでいいのかと。やはり幸福感や精神的な豊かさも大切だなと。そこで、知人の経営者やNPOのファウンダー、起業家、経済学者、それから「カマコン」の仲間など、いろいろな人たちと一緒に議論して行きついたのが地域資本という考え方です。

※カマコン:2013年に鎌倉に拠点を置く経営者ら(カヤック柳澤氏含む)により結成された地域団体およびその活動名称。定例会が開催され、「鎌倉を面白くする」ためのプロジェクトについて議論する。近年は自治体や地域から視察グループが来ることも多いという。

地域資本は3つの要素から成り立っていて、1つは地域経済資本で財源や生産性、もう1つは「地域社会資本」という人とのつながり、最後の3つ目は「地域環境資本」という自然や文化です。

この3つの資本をバランス良く増やすことで、成長が持続可能なものとなり、人の幸福感にもつながりやすい、と。そのために、企業や行政、NPO、そして市民といった地域のステークホルダーが一緒になって取り組もう、というのが基本的な考え方になります。垣根なく一緒にというのが重要です。

面白さも鎌倉も捨てない経営

――企業は上場している限り、やはり株主からリターンは絶対的に求められます。その辺りの兼ね合いはどのように考えているのですか。投資を受けている側の本音としては「投資家にきっちりリターンさえ返せていればあとは面白く仕事をしていればいい」というのもあり得ると思うのですが。

柳澤:成長し続けること、言ったことを守ることこれがシンプルな上場のルールです。昨年我々は言ったことを守れなかったので、それに対して必死に改善しなければなりませんが、だからといって、「面白さを犠牲にする」という選択をするわけではありません。

「面白く働きつつも言ったことは守る」という論理は大事です。でも「言ったことを守れなかった、じゃあ面白く働くことは捨てよう」という論理に正当性はないはずです。

効率だけを求めるだけでは人は幸せになれない、というところへの挑戦からスタートしているので、「鎌倉本社は非効率だから東京に移る」という理屈で東京に移ることはない。できるかできないかじゃなくて、それでどこまでできるかをやっているわけです。

経済効率だけを追求したい人たちはいて、それを追求できるシステムはすでにかなり整備されています。世界の富も右肩上がりに増え続けているわけで、それ自体を否定するわけではない。ただ、GDPという単一指標に頼りすぎることによって、環境破壊や富の格差といった問題が表出していることも事実です。

――カヤックなりの言い方がそのまま受け入れられるようになってきたな、と感じたタイミングはいつ頃だったのでしょうか。

柳澤:明確なポイントはなくて、ゆるやかに変化した感じがします。明確な転換点があったのかもしれないですが。最近なんとなくそういう人増えたなあ、くらいの感覚ですね。

会社、地域、家族、個人を相互に結びつけたら楽しくなった

――カマコンに取り組む中でそうした変化を感じ取られたのでしょうか。

柳澤:そこから考えると、確かに、僕のなかでカマコンは1つのきっかけになりましたね。先ほども言いましたが、会社はもともと楽しかったし、今も楽しいんです。この会社でもっと面白く働き続けるということは、創業者は比較的やりやすい。

でも、自分が地域の一市民としてカマコンに取り組み始めて、地域の人とつながりを持ってやり始めた時に、これは「あ!」っていう気づきがありました。地域とのつながり、家族とのつながり、会社組織を越えた個人とのつながりといった、これらを同時並行ですべて充実させていく中で、非常に楽しくなったなっていう感触がありました。

そうしているうちに、会社はある意味お金を稼いでいればそれでいいという側面があるわけですが、でも地域や家族はどうするか――次の課題として浮かび上がってきたんです。ライフワークバランスをみたり、育休をとるようになったり。特に育休は会社として取り組まないと限界がありますし。そうやって地域や家族のことを考えて取り組んでいったら、次のチャレンジが見えてきたんです。それが地域通貨の取り組みにもつながるのですが。

――昨年(2018年8月)、地域通貨の新会社であるQWAN(クワン)を作りましたよね。

柳澤:まだ開発中なのでアイデアレベルの話になりますが、例えば会社が報酬の一部を地域通貨にするという考え方があってもいいと思うんです。GDPとは別の枠組みだけど、その新しい枠組みの中では地域の経済成長が見込める。そうすると地域としては楽しくなるわけです。

僕らがいま考えている地域通貨は、今まで考慮されていなかったことが考慮されるようにしています。例えば、使ってないと徐々に減っちゃうから一生懸命使うようになる。かつ、使い方を全部公開できるような仕組みにすることを考えています。つまり、誰がどこでどのように使っているのか、といった地域と人同士のつながりが見えるわけです。

今のお金でも、100円は100円で絶対的な価値は変わりませんが、そこに人のつながりや思いが関わることで、価値の感じ方が変わってくることがありますよね。例えば人におごったり、逆に人におごられたときのお金って、気持ちとしては実際の金額よりも価値が高く感じるわけです。こうしたポイントが実際に見えるようになると面白い。払う側も受け取る側も意識が変わります。こうした仕組みからまずやるべきかな、と思っています。

今のお金は貯めると金利が増える形になっていますが、これはお金を使わず人とのつながりを増やさないまま価値が増えているわけです。これはそもそも地域の在り方と合っていないのかもしれません。

――なぜ地域通貨に行き着いたのですか。

柳澤:最初は、自分たちで地域通貨までつくる必要はないと思っていたんです。地域の社会資本を増やす通貨としてすでに最適なものがあるのだったら、それを採用すればいいと思っていて。ただ、いろいろ調べていた中ではなかなか自分たちの考え方にマッチしたものがなかったんです。

多くの地域通貨の目的は、地域内の消費を増やして、地域外に対する赤字を解消するというものです。それよりも、できれば社会資本を増やす、人のつながりを増やす、しかも特定の地域に限定せずに使えるような通貨がいい。そのほうが面白いですし。

先ほど「使っていなくて貯めるだけだと減る」というコンセプトを挙げましたが、これが大事なのは、持っているだけだと社会資本を増やすことに貢献しないからです。

でも、例えば社会資本が増えているような地域の通貨を貯めていると何らかの形で増えるとか、人の資本を増やしているような人に提供したら増えるといったような、投資的な要素があってもいいかなと思っています。ものすごく社会関係資本を生み出している人にお金を預けたら、それはある意味人のつながりを増やしているわけだから増えてもいいかなっていう考え方です。

お金を稼ぐのは面白いことですし、売上や利益を否定することはできないと思っています。でも、その使われ方の設計を少し変えることで、お金の流れや価値観が変わることもあるのではないかと思うんです。その意味では最初の話に戻るのですが、僕らはただただ面白いっていうことに忠実にやってきていて、その結果として、GDPの問題とか、地域通貨に行き着いたのです。

地域が面白くなる社員食堂

――カヤックは「まちの社員食堂」を運営しています。鎌倉に拠点を置く企業や鎌倉支店に勤める従業員向けの食堂で、いわば、シェアード型の社員食堂と見なせると思います。これにはどんな面白さを見いだしたのでしょうか。

柳澤:面白い社員食堂とは何か、と考えたんです。料理をする人にとっても、ひとつの企業だけにおいしいものをつくるより、地域の複数の会社に対して作るほうが面白いかもしれない。利用してくれる人にとっても、毎週、週替わりで地元のお店の味を楽しめたら、きっと面白いですよね。それに、社員食堂が一企業の社員だけで閉じているより、いろんな会社や団体の人たちが集まって、組織の壁を超えて交流できる方が面白い。

ぜんぶの関係者にとっての面白さを起点にしたら、結果、社員食堂を起点にして社会資本が増えるという形になるんじゃないか。そういう風に考えられると思います。

――同じようなコンセプトは他の領域にも適用できそうですね。

柳澤:「まちの社員食堂」だけでなく、「まちの保育園」などを運営していますが、ここ最近は「まちのシリーズ」として広がっていて、人のつながりという社会資本を増やすような設計を必ず入れようということでやっています。

「まちの映画館」というプロジェクトがあります。「まち全体が映画館」というコンセプトで、カフェやレストランなどで映画を上映しているんです。これはHulu(フールー)と提携して上映できるようにしています。

でも、ただ観るだけだと人のつながりが増えません。そこで上映が終わったあとに、感想を言い合う場を必ず設けることにしているんです。そうすると、例えば10人で感想をシェアすると「あぁ人ってこんなところに共感するんだ」っていう発見がある。バラバラ加減を知るのは面白いですし、感想を通じてその人となりがわかるから、互いに仲良くなっちゃうんですよね。それが最高に面白い。そうした面白さを多くの人が分かってきて、それで自発的にいろいろなことが起きています。

地域のギバー(与える人)と、どう繋がるか

――ある時期、産業界で「ギバー(Giver)」と「テイカー(Taker)」の説が話題になりました。与えることに徹するギバーは、与えたいときだけを見ると物理的には損をする。けれども目に見えない利益のようなものは増え、回り回って物理的な利益として還元されるという考え方です。一方、テイカーは短期においては物理的な資産が増えるけれども、自分だけが儲かればいいという考え方が周囲にばれて中長期的に見ると目減りする、と。

この説を念頭に置いて事業をしていると興味深くて、コミュニティの中にテイカーが1人でも入ると、コミュニティの質がぐっと下がる感覚があります。一方、常にテイカーが入り込む可能性は常につきまといます。企業だとある程度選別できますが、地域のコミュニティでは難しい側面がありませんか。

柳澤:会社の観点か、地域の観点かによるんですけど、会社も同じじゃないですか。ビジネスをゼロサムゲームだって思ってる人は、自分が得して相手が損する、自分が損して相手が得する。でもそうじゃなくて一緒に得しようと考えてビジネスをする人もいる。どうせなら一緒に儲かろうという人と仲間になりたい。

でも、会社経営は戦略性をもってパートナーを選べるけれども、地域は住んじゃっているからある部分選択できないこともある。ということは、あまりにもギバーが少ない地域だと難しいかもしれない。

――組織は生命の在り方と似ています。会社や地域コミュニティにおいても浸透膜のようなものがあって、合う人は取り込むけれども、いまいち合わない人は出ていくという構図があります。フラクタルで捉えると細胞も組織も一緒ではないかと思うのですが、そうした実感はありますか。

柳澤:会社経営についてはある程度コントロールしてやることができますよね。自分達の意思でどういう人を集めようということができる。でも、地域活動であるカマコンに関しては、来るもの拒まず、去るもの追わず、あまりコントロールをせずに、もし難しくなったら、いつ解散してもいいという気持ちでスタートしました。

でも、それでも意外にまわっているんです。実は、会社ももしかしたらそれでいけるかもしれない(笑)。

メインの人たちがギバーであることが大切

――ということは、カマコンがうまくいったのは、メンバーの成熟度がある程度高まり、ギバーが多かったということでしょうか。

柳澤:それもあったかもしれません。「人のつながりっていいよね」と言いますが、地方と都会の構造をみると、そもそも地方の人はその土地における人のつながりが面倒だと思って都会に流出するわけですよね。都会の無関心さが心地が良い。でも鎌倉の場合だと、鎌倉に住んで都会に通勤する人も多く、その無関心さを体験したうえで、一周して人のつながりが大事だというところに入ってきている。

――歴史を振り返ると、農村社会から工業社会に移った時に、労働力が地方が大量に都市にあふれ出てきて大都市化しました。人の縁が濃い有縁社会に属する人が減り、無縁社会の構成員が増え、お金があれば豊かな生活ができるけれどもお金がなければ命もつなげないという社会が形成されました。

対して今は、いわば有縁社会の良さが再確認されて、そちらにちょっと軸足を戻したいと考える人が増えてきた時代だと思うのです。ただ今の柳澤さんのお話しから考えると、いい空気感の地域は大丈夫ですが、いい空気感がつくれない地域は難しいのかもしれませんね。

柳澤:一周してらせん階段的な進化をしてきた人たちがリーダーになれば、いい空気感を醸成することも可能かもしれません。つまりIターンやUターンは結構重要だし、国が行っている地域おこし協力隊にはそういう意図もあるのでしょう。

また、ずっと一箇所にいるとどうしても見ている世界が狭くなりがちです。視野が狭くなると面白いことを生み出しにくくなる。一方、見ている世界が広ければ広いほど、面白いことを考えやすくなります。だからこそ、Iターン、Uターンする人の流動性は必要ですし、多拠点居住も重要、人の動きは重要だと思います。

地域通貨が異なる各地域で共通のものとして使えると、それぞれの地域の流動性を促すのに使えるんじゃないかと。例えば地域通貨をモビリティのために充てることになればなお良いというイメージがあるんですよね。

若い人の「面白い」に寄せて捉える

――『鎌倉資本主義』では環境資本の重要性についても触れていました。

柳澤:山や海があるところは豊かになる感じはあるのですが、そこは僕らとしては今は手付かずです。企業ができる領域ではなさそうな感じもしています。一企業がその地域の土地をかなり多く所有していたらまた別ですが、ここは行政と一緒に連携していくべきでしょう。なので、社会資本なら企業として手を付けられるかなと思い、最初にそちらを選んでいます。

――柳澤さんは40代半ばですが、社長として、若い社員が感じる新しさや面白さとのギャップに苦しむときはありませんか。

柳澤:しょっちゅうあります。ITの世界では特にそう。でも、だからこそ会社では若い人も含めて誰でも言いたいことが言えるようにしたいと思っている。言いたいこといってもらえばそこから若い人の感覚が多少勉強できるから(笑)。

 

「面白い」には新しいとかそういうものもあるんですよね。その意味で言えば、時代が新しくなっていくときの面白さというのもありますし、若い人が考える面白いと僕が考える面白いは結構違う。でも僕はなるべく、自分より下の世代の「面白い」に寄せて捉えるようにしています。

※このブログは「Future Society 22」によって運営されています。「Future Society 22」は、デジタル化の先にある「来るべき未来社会」を考えるイニシアチブです。詳細は以下をご確認ください。

Future Society 22 ウェブサイトhttp://www.future-society22.org

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