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あなたの会社の「働き方改革」にWILL(意志)はありますか?

(聞き手:柴沼俊一 ・斎藤立/構成・撮影 Future Society 22)

2016年5月、“新しい働き方の発信基地”として誕生した一般社団法人「at Will Work」。

藤本あゆみ氏を中心に、「デジタル×働き方」のプロジェクトに参画していた各分野のプロたちが理事を務めているユニークな集まりです。

同法人では、新しい働き方の事例を紹介するプラットホームを一つの目標にしています。数々の事例を増やし、集めて共有することで、「変わりたい」個人、「動きたい」企業たちに最初の一歩を踏み出すきっかけにしてもらおうというのです。

今回の対談で大事なキーワードはWILL。この言葉を心の片隅に置いてお読みください。(Future Society 22)

──藤本さんの記事をいくつか拝見しました。「日本での働き方の選択肢をもっとひろげよう」と思い立ち、2016年には一般社団法人「at Will Work」を設立。各分野の専門家数人の理事を中心に小規模の事務局ながら大規模なイベントやシンポジウムを開催しています。内容的にも行政とはかなり違うアプローチをみていて、「あ。なんか、かっこいいなぁ」と思っていたんです。以前から「働き方」には関心があったんですか。

藤本あゆみ(以下、藤本):新卒でキャリアデザインセンターに入りました。人材サービスを提供している会社ですし、仕事で悩む場面は何度もあったので、「働くことってナニ?」とはよく考えていた方だと思います。でも、その後Googleに入ったときは「働き方」について考えなかった。実は忘れていたんですよ。

──え、なぜ。

藤本:自分なりの働き方をしているのが「当たり前」だったからだと思うんです。出社時間ひとつをとってもみなバラバラ。シリコンバレーでの朝の渋滞が嫌なので、朝早くには出社しているひとも少なくないし、逆に、昼夜逆転で働いているひともいる。別にそれでも構わない。「会社は許可しているの?」という議論はないので、考える必要もなかったんです。

ただ、そのGoogleで「Women Will Project」に参加する機会を得ました。これは当時、テクノロジーを使って働くお母さんたちをサポートするプロジェクト。日本と米国、まったく違った「世界」をみてきた以上、改めて「働くってナニ?」「企業と個人の関係って?」と考えるようになったし、いろんな人たちと議論をしてきました。そしてこのプロジェクトで出会ったひとたちと「“女性だけに捉われない”活動を始めよう」と思い立ってできたのが「at Will Work」です。

楽しいのは「やりたいことがやれる環境」

── 一般社団法人にしたのはなぜですか。

日比谷尚武(以下、日比谷):企業じゃないからこそ、各界の有識者の方や偉い方々にも協力をお願いしやすい。あとNPOは活動分野が規定されます。このテーマはみんなで考えた方が断然速いし、活動も広げたいので。

藤本:私のなかには「日本全体を変えたい」みたいな“激しい野望”はないんです(笑)。「私の周りの人たちの働く環境が、少しでも働きやすい場所になればいいなぁ」というのが正直な気持ち。それで、周囲がうまく回り始めたら早く裏方に回りたい。それで「ああ楽しいなぁ」と思いながら、みんなの様子をずっと眺めていているのが理想。

──藤本さんが「ああ、楽しいなぁ」と思えるのはどんな状況?

藤本:「やりたいと思っていることがやれる」環境です。現代の社会では、「やりたいこと」があってもしようと思わないヒト、自分にはできないと思っているヒトが多い。でも、これって、企業にとっても個人にとっても損失です。じゃあ、自分なりの一歩を踏み出せばいいんだけど、ここで躊躇しているヒトが多い。迷っていると「何もしてない」と批判される。「もー、どうすればいいの!」と言いたい。楽しそうじゃない。

──「やりたいことがやれる」って別の言い方をすると、何も考えずに、いま自分が取り組んでいる仕事に集中している状態です。いまやっていることに疑問をもち「ああこんなことしていていいのか?」「自分の将来どうなるの?」「日本はどうなるの?」とか不安を抱いているのが一番あぶない。不安だと仕事に集中でてきないし、だから結果的に、会社の生産性もあがらない。

「at Will Work」が運営期間を5年に限定した理由

──「何も考えてない」には、先ほどの「集中してほかに考えていない」状態もあれば、実は「ほかにやりたことを考えつかない状態」もありますよね。

藤本:ええ。いまの環境だと中長期の目標を抱くのはタイヘン。分からない。分からないのに強要されるのはシンドイ。でも、目標はいまなければなくてもいいし、目標ができたときにできる社会がいい社会だと思います。

日比谷:「at Will Work」を設立していてから、よく「at Will Workは5年後、10年後にはどうなりますか」「目標はなんですか」と聞かれます。でも「at Will Work」を立ち上げる時に決めたのは「期限」だけで「at Will Work」としての活動範囲も目標も決めていない。ただ、「おそらく今後10年ぐらいで調整していくであろう社会環境の変化をその半分の期間、5年で推進できたら、役に立った」と言えるのではないかと考えています。

藤本:私も質問されると「目標とかないです」「え?持たなければいけないと誰が決めたの?」「決めたくない」とか答えちゃう。実際、その時の環境や周りの人たちをみて、「あ、これができたら面白いかな」とか思いつきながら新しいことに取り組んでいます。それができることが楽しい。

──藤本さん、日比谷さんたちが、そうした行動ができるのも、お互い専門的な知識なり、経験があるからだと思うんですが。

藤本:メンバーが歩んできたキャリアは違いますが、みな得意な分野がある人たちです。お任せした方が速い分野はその人にお任せした方が確かに速いし、逆に、自分がやった方が速いのは勝手にやって事後承諾。理事会では、自分たちが決めたことを報告する場で、みな実際に顔を突き合わせて決めることは少ないですね。こうした関係はいまだからこそできることであり、学生時代、20代ではできなかったと思います。

人事異動では手に入らない、意志(WILL)をもった選択

──いまのお話を聞いて、ふと思い出したのが、生物学者の福岡伸一さんの『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』です。僕(=柴沼)、この本で驚いたのは細胞の成長の話です。簡単にいえば、僕たちのカラダをつくっている60億の細胞は3カ月ですべて生まれ変わる。全身が新陳代謝され、3カ月前の僕とは違うものででてきるわけです。

ここで面白いのは、個々の細胞って、最初に何の細胞になるのかが決まっていないまま誕生しているということです。脳から随時指示があるわけでもない。たまたまその場所に生まれ、その環境、周囲の細胞との関係性だけで「あ、おれこれになろう」と方向が決まって成長しているんですね──。で、これって、「組織と個人の関係」でも理想じゃないかなーと最近思っているんです。

藤本:分かります。私はずっと仕事が「営業」でした。でも「at Will Work」やいま新しい会社のお手伝いをしているうちに、広報、PRと広がってきた。それも「この組織を大きくするには、こっちができた方がいいかな」と判断して勝手に動いています。結果的に自分も進化している感覚です。

──そうした「変化」を引き出したのは環境のおかげ?自分の意識が先に変わったから?

藤本:意志と環境が合致したタイミングですね。だから、会社の命令、人事異動で新しい経験を積み上げていくのとは違う。それは自分が変わったわけじゃない。やはりWILL(意志)がないと、自分の変化はないでしょうね。

WILLを引き出せば改革の成功率はあがる?

──最初に聞くべきでしたが、そもそも「at will work」の意味って「WILLが機能している状態」という意味、それとも「WILLをもって働く」という意味?

藤本:日本語に訳すと「随意雇用契約」(笑)。堅いんですが……我々としては「個人が意思をもって組織と対等な関係で働いている状態」を理想としている、との意味を込めています。最初は、「新しい働き方を考える委員会」というアイデアもあったんですが、さすがにちょっとダサいかなと。

──私たちの働く世界にはWILL CAN MUSTの三つがあります。その中で、日本企業では働いている人たちのWILLが圧倒的に弱い。「しなければならない(MUST)」に対しては、みんな答えることはできるし、その自分は何ができるか(CAN)、も客観的にみることもできる。でも……

藤本:で、「あなたは何がやりたいんですか?」と聞くと、「え?」と戸惑う人が多い。

──そう。本来、仕事に対する個人の意図がはっきりしていた方が気持ちも違うし、結果的に生産性も違う。だからこそ組織改革でも働く人たちのWILLをまず引き出してあげてから、プロジェクトに取り組んだ方が、プロジェクトの成功率も高くなります。

藤本:先日、あるコピーライターのイベントに参加したんですが、そこでも「内なる言葉をどれだけ出すかが大事」とおっしゃっていましたね。じゃないと言葉に力がでない。いい言葉が人を動かすと。自分の中にある言葉の解像度を高めていかないと。

日比谷:先日、10日間ほど京都の禅寺で修行に行ったんですが、そこで泊まり込みで修行している若い人たちも「自分が何をしたいのかわからない」と悩んでいる子たちが多かった。それで、僕はみんなに「まず、きみたち日記書け、日記書け」とけしかけてきた(笑)。

藤本:ライティングメディテーション。日本人の日記って夏休みの絵日記から入るので、みなきちんと書かないといけないと思っているですが、思いついたことを書き続けるだけで、言葉の解像度があがってきます。何も思い浮かばなければ「何も浮かばない」「なにも浮かばない」と書くだけでもいい。気持ちの言語化ですよね。

──Googleが会社としてマインドフルネスを取り入れたように、Future Society 22でもデジタルとマインドのバランスは大きなテーマなんです。そこで最近はまっているのが能楽士・安田登さん(最近の新刊)。能の世界を通じた「心と体」、「個人と社会」の捉え方がとても参考になります。その一つに、心の捉え方があります。

ココロには形がない。言葉が生まれてはじめて認識されたものですが、それも三層で理解されていたというのです。まずは心(ココロ)。これは瞬間瞬間で思い浮かぶこと。そうした思い浮かぶことからで言葉にされていくものがオモイ(想い)。そうして、想いから作られていく根底の揺るぎないものが心(シン、※ココロと同じ漢字だけどここではシンと読む)。この三層で成り立っており、その構造をはじめて言語化したのが中国の孔子だと──。

Facebookのザッカーバーグがいう「パーパスドリブンの社会」では、目的をいち早く達成するための技術、仕事の仕方がどんどん進化しています。要はスピードが速くなっているし、変化も速い。人間はそれに対応しなければならないんですが、その結果、刹那の遷ろう心(ココロ)に支配されて、心(シン)の部分がみえなくなっているんですよね。

藤本:「気持ちの言語化」というアプローチも、その心(シン)を探る作業でもあるんでしょうね。効率が悪いといわれても「でもやりたいんだもん!」という気持ちが本来もっと見えていていいと思うんです。お互いのWILLとWILLが共鳴しあった活動の方が強い。

いまの「働き方改革」では、なぜ自分の会社が改革に取り組むのか、その理由が希薄なまま取り組んでいるケースが少なくありません。やるも、やらないも会社の意志。その理由も、意志もないまま行動するのは疲れます。

WILLを持つことで選択肢が広がる

日比谷:いま世間で議論されている「働き方改革」にはいくつかの顔があります。規制の遅れなどで働きたくても働けない環境や、いわゆる「ブラック企業」での労働環境の改善―これは行政がやるべきテーマであり、企業としても見直すべきことがある。守られるべき人たちはちゃんと守るべきでしょう。

そして改革には「組織と個人の雇用関係」という課題もあります。ここでは世代間不平等があり、いまの雇用関係のまま今後5年、10年維持できるのか?20,30代は変身できるけど、40代、50代は誰もが対応できるかどうか……。

藤本:「at Will Work」の役割の一つとして考えているのが、企業、個人、プロジェクトの事例の紹介です。例えば今年から始めるアワードでは5年間で100件表彰しようと思っています。このアワードでは、企業や個人ばかりではなくプロジェクトも対象。経営者が選んだ賞とか人事部長たちが選んだ賞とか多様な視点を盛り込みます。アワードって大企業とか本当に優れたケースしか紹介されないものが多いのですが、それで「自分たちにはできない」と気落ちしているヒトたちも少なくありません。だから、アワードの見方とやり方を変えたい。受賞しなかったものも紹介します。小さな事例、挑戦を讃えることで、「あ、自分たちにもできるかも」と変身するきっかけになればいいと思っています。

──「限界費用ゼロ社会」では、個人の負担がなくても提供できるサービスが増えていき、これを組み合わせることで、最低限生きられる世界がイメージされています。また、フィンランド、フランスではベーシックインカムの実現性も議論されており、多少の波乱はあっても、生きるコストについての不安はどこかで消えていくことも視野に入っています。ただ、問題は、ありあまった時間、自由を何のために使うのか──。

藤本:だからこそ「仕事の以外の世界」も含めてもいろいろ選択肢があるんじゃないの、と言いたいですね。そのための事例を見せていきたいです。いまの日本ではあまりにも選択肢が狭い。それでもいったんこんな例もあるんだと分かれば、みな自分で動き出すはずです。そういう意味では、日本には“伸びしろ”がある、可能性を残していると思っています。

藤本 あゆみ

藤本 あゆみ Ayumi Fujimoto
一般社団法人at Will Work 代表理事

1979年生まれ。大学卒業後、2002年キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職を経て、入社3年目に、当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。2007年4月、グーグルに転職。代理店渉外職を経て、営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。2016年3月より株式会社「お金のデザイン」にてPRマネージャーとしても従事。

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日比谷 尚武

日比谷 尚武 Naotake Hibiya
一般社団法人at Will Work 理事
大学卒業後、1999年NTTソフトウェアに入社。電子マネーの実証実験プロジェクトなどを担務。その後、ベンチャー企業での役員を経て、Sansanに入社。マーケティング、広報などを経て2016年12月に独立。現在、Sansanと業務委託契約(コネクタ / Eightエバンジェリスト、Sansan 名刺総研所長)を結びつつ、PR Tableの社外取締役、at Will Workの理事としても活動している。

※このブログは「Future Society 22」によって運営されています。「Future Society 22」は、デジタル化の先にある「来るべき未来社会」を考えるイニシアチブであり、柴沼俊一/瀬川明秀を中心に活動しております。詳細は以下をご確認ください。
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