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エネルギーインターネット時代の到来
--「自然電力」が取り組む分散型社会インフラとは

 

磯野謙氏(自然電力株式会社代表取締役)

Future Society 22

未来社会がどうあるべきかについて、概念を語る人は数多くいるが、実際に描いた未来像を実現すべく行動を起こす人はあまり多くないーー。

2050年、さらに22世紀を想定した未来社会について真剣に考え、行動している人たちを繋いでいくFuture Society 22。今回は自然電力株式会社の代表取締役である磯野謙さんを招き、お話を伺った。

(聞き手 柴沼俊一 文・山田久美 構成Future Society 22)

  

会社のパーパスは「青い地球を未来につなぐ」こと

ーまずは、自然電力とはどのような会社なのか、事業内容から聞かせて下さい。

磯野:自然電力は、東日本大震災の3カ月後の2011年6月に創業した会社です。事業内容は、自然エネルギーを使った発電所の開発から建設、運営まで、また、その電力を家庭や工場に使っていただけるよう電力小売り事業も行っています。小さな電力会社といったイメージでしょうか。太陽光から風力、水力、バイオマスまであらゆる自然エネルギーを扱っています。

当初は3人の創業者が1人50万円ずつ出し合い、資本金150万円で始めた会社でしたが、今では手掛けているプロジェクトの総発電量は1000メガワットを超えています。これは原子力発電所一基分に相当する発電量です。

プロジェクトは、国内は、北は北海道から南は石垣島まで90カ所以上に及んでいます。また、海外展開も進めているところで、先日は、洋上風力発電の合同会社をカナダの会社と創設しました。

2019年10月にビジョンやミッションに代わって、代わりにパーパス(存在意義)を明確に打ち出しました。日本人の私にとって、ビジョンとミッションの違いは正直言ってよくわからず、あいまいな立ち位置のものを会社の柱に掲げるのはおかしいと思ったのです。

ーなるほど。ビジョンは大げさだけど、パーパスは掲げることはできる。

磯野:そう。私たちのパーパスは明確です。それは、「青い地球を未来へつなぐ」ということです。このパーパスを実現する上では、国内外は関係ありません。そこで、パーパスに基づいたビジョン&アクション(私たちが実現したい世界)である「自然エネルギー100%の世界を共につくる」を実行するため、「2030年までに、196カ国に事業展開をする」という目標を掲げました。

実際、世界規模で事業を展開していくには、それぞれの地域の方々とパートナーシップを結ぶ必要があります。そのため、自然エネルギー100%の世界を共につくる“コクリエーション”をキーワードにしています。

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磯野謙(いそのけん)
自然電力株式会社 代表取締役社長) 慶應義塾大学環境情報学部卒業 2004年株式会社リクルートにて広告営業を担当。その後、2006念風力発電事業会社に転職し、全国の風力発電所の開発・建設・メンテナンス事業に従事。2011年6月、東日本大震災を機に自然電力株式会社を設立し、代表取締役に就任。自然電力の事業は太陽光・風力・小水力等の自然エネルギー発電所の発電事業(IPP)、事業開発・資金調達、アセットマネジメント、個人・法人向け電力小売事業など。ロンドンビジネススクールなどでMBA。

ローカル同士を繋ごう、中長期の視点でおカネの流れをつくろう!

磯野:そこで実践するために2つのテーマを掲げています。

1つ目のテーマは、画一的に同じものをグローバル展開するのではなく、ローカル同士をグローバルにつなぐということです。基本的には自然エネルギーの事業展開ですが、ローカルのインフラをベースに、課題解決を図っていくことを考えています。ローカルで必要なものを実現するため、ベストプラクティスをつなげながら、グローバルに広げていくというイメージです。そして、そのためには、人同士のつながりが不可欠ですので、コクリエーションという考え方が重要になるというわけです。

現在は、約10カ国で事業を展開しています。また、投資しているのはブラジル、インドネシア、ベトナム、日本の4カ国で、今後、マレーシア、タイ、ナイジェリアにも投資していく予定です。

特に自然エネルギーに関しては、ローカル同士を繋ぐという概念が極めて重要であると考えています。社会全体を考えた時、あらゆるものが中央集権型から分散型に移ってきています。例えば、働き方に関しては、個人で事業を立ち上げたり、副業が認められやすくなるなど個の時代になっています。これは自然の摂理です。エネルギーも同様です。

2つ目のテーマは、短期的な利益や利潤を追求するのではなくて、中長期的な視点で、お金の流れを作るということです。

現在は、ビジネスにおいても政治においても、短期的に物事を判断せざるを得ない社会構造になっています。私は、これが地球の環境問題に繋がっていると考えています。そのため、基本的に自然電力本体の株式には外部資金は入れない方針をとっています。また、外部のプロジェクトやファンドによって得た利益は、株主には配当せず、未来に投資するようにしています。発電所の売り上げの1%を、その地域が必要としているエネルギー以外の課題解決や寄付に再投資する取り組みも行っています。つまり、再分配を株主のためではなく、未来のために回すようにしているのです。

 

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近い将来、あらゆるものが中央集権型から分散型へ

ーあらゆるものが中央集権型から分散型に移ってきているというお話、同感です。そして、社会形成における価値観が中央集権型と分散型では根本的に違う気がしています。通信インフラが専用回線からインターネットに置き換わった時も同様ですよね。専用回線は特定の人同士をつなぐことを想定して、計画的に引いていますが、インターネットはユーザー同士が勝手にどんどんつながっていきました。

同様に、磯野さんのお話のように、エネルギーに関しても、太陽光発電に適した地域、小水力発電に適した地域といった具合に色々あるわけです。したがって、ローカルのそれぞれの状況に応じて、最適なソリューションを提供しながらローカル同士をつなぐことで、全体が流動性をもち、1つの大きな機能として働くようになるということですね。従来のような大きな電力会社が発電し、送電網を計画的に整備し、それを使って、一方的に電力を供給するという従来のビジネスモデルとは、自然電力は大きく違うというわけですね。

磯野:エネルギーだけでなく、今後、全てがその方向に向かうと思っています。例えば、自動車産業も、現在は数社の大手自動車メーカーが独占していますが、電気自動車の時代が本格的に到来すれば、異業種の方でも製造できるようになりますから、現在の産業構造は大きく崩れることになるでしょう。ビールなどもクラフトビールの人気が高まっていますが、同じ流れだと思います。私は「ミレニアル世代1年目」なのですが、今後ミレニアル世代が担う会社のビジネスモデルは自然にそうなっていくということです。

ーちなみに、そのようなビジネスモデルで、2030年までに196カ国への展開を計画されているとのことですが、今のやり方をそのまま横展開していけば、例えば、IPCCが掲げる「2030年までにCO2排出量45%削減」を実現できるのか、あるいはそれだけでは不可能で、何か非連続な解決策が必要なのか。磯野さんのお考えを聞かせて下さい。

磯野:エネルギーに関しては、私は非連続な解決策は必要ないと考えています。一方で、ローカル同士をつなぎ、グローバル化を加速させる方策として、私は現在、それぞれの地域で発電所を作ることができる人材を育成するための専門学校を作ろうと考えています。

発想のきっかけは、今、当社に世界中からインターンが来ていることです。インターンが母国に戻り、ブラジル、アジア各国、ナイジェリアなど各地でプロジェクトを開始しています。そこで、今後は、世界中から優秀な人材を集めるなどリクルーティングも含め、これをもう少し体系化することを考えています。再生可能エネルギーの場合、ソリューションを体系化できるため、それを展開することが容易です。ただし、教育自体は事業ではないので、教育×投資会社といったイメージです。

ーしかも、分散型ですから、従来事業化に数千億円以上必要だったところが、数億で可能になりますからね。優秀な人材さえ育成すれば、その人材が現地で発電所を作り、運営も担ってくれるというわけですね。これは、プログラミングの世界でアプリケーションを開発できるプログラマーを育成するのと同じですね。

このお話は、我々にとっても非常に興味深いところです。さきほど磯野さんは、「短期的な利益や利潤を追求しない」とおっしゃいましたが、それは、中長期的な社会価値を追求した結果として、お布施のような形で投資したお金が戻ってくる、というビジネスモデルだと思います。だからといって、決してリターンが少ないわけではないと私はとらえています。

パーパスに関しても、基本的には、Aというサービスを提供することで、Bという価値を提供し、それにより、Cという社会を作るという流れになりますよね。社会的価値を創造した結果として、お金が儲かるという流れに関しては、営利目的の会社の方々もその仕組みが確立され、中長期的な見通しが示されれば、賛同しやすいと思います。

磯野:欧州に加え、日本や米国、中国でも自然エネルギーの普及が広まっているため、先進国ではお金が集まりやすいのですが、たとえば、東南アジアやアフリカなどその他の国・地域はまだまだですので、ここはブレイクスルーを起こしたいしたいところです。

磯野:例えば、自然電力と小布施町と地元ケーブルテレビ局のGoolightによる、地域新電力の「ながの電力」では、「日本の“地域”におけるテーマは、カルチャー×コミュニティ×インフラだ」と話しています。

 

カルチャーとは、アイデンティティだと私は思っています。ながの電力のベースである小布施町はすごく強いカルチャー、アイデンティティ、プライドを持っていて、その魅力に人が引き寄せられ集まってきています。それに伴い、次世代を創造するためのお金も集まり、新たなライフスタイルが作られていくのだと考えています。

加えて、ながの電力の電気を使うと、電気代の2%が長野県の小布施町に寄付される「For Nagano」という仕組みを作りました。これは今年10月に発生した、台風19号による被害が甚大だった長野県を、長期的にサポートしたいという想いから始まっています。

2%が定期的に寄付されるということも大切ですが、この取り組みをきっかけに、長野県や小布施町を応援するためにながの電力のユーザーになって下さった方々との繋がりが、非常に重要と考えています。電気は毎日使うものなので、電気を媒介として、例えば毎月1回の請求書で長野県の良いところを発信、「遊びに来てください」といったメッセージを添えることができます。電気は地域を越えていくこともできます。つまり、関係する人口を増やすための手段として、電気をメディアとして価値を転換させるということです。

電気だけでは誰も興味を示さないので、別のものに転換する手段をあれこれ考える中で思いついたアイデアです。

ー我々が参加している「風の谷」プロジェクトにも、「風の谷憲章」というものがあり、カルチャーやコミュニティを非常に大事にしています。まず、カルチャーやコミュニティありき、そこでテクノロジーを活用し、いかに居心地が良い場所を作れるかをテーマにしています。

 

短期的な利益は追わず、中長期的な社会価値を追う

ーところで、短期的な利益を追うよりも、中長期的な社会価値を追うことでリターンが発生するという話に戻りますが、従来の会社は、自分が持っている人・物・お金をどうやって効率的かつ効果的に使うかを考えてしまいます。しかし、磯野さんのお話を伺っていると、たとえば、各地域で起こった自然エネルギーのプロジェクトによるリターンは、別に回収しなくても構わないと思われているように感じます。この点も従来の株式会社の経営者の思想とは大きく異なっているように思われますが、お考えをお聞かせ下さい。

磯野:まだ、できてはいませんが、理想は、会社のパーパスと個のパーパスがあり、しかも会社はそれを繋ぐネットワークでしかないというイメージです。今まさに創業メンバーと、これをどうすれば実現できるかを議論し始めているところです。

とはいえ、通常、経営者にとって、力とお金を会社から分離、分散させることは怖いことですよね。しかし、それができたら、新たなビジネスモデルが誕生すると思っています。そういう思いをもっています。これは大きなチャレンジです。とはいえ、その場合の人事制度や報酬制度のあり方については、現在模索中です。

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ーそうはおっしゃっていても、私からすれば、インターンが母国に戻り、発電プロジェクトを立ち上げているという点で、すでにできているのではないかと思います。

磯野:どうもありがとうございます。これは創業当時からのこだわりなのですが、基本的に事業を興す人たちに対しては、世界中、好きな場所で興してよいと言っています。グローバル・ソーシングに近いものはできていますね。

ーすごく勇気づけられるお話です。一方で、既存の大企業や上場会社は、その動きができていない気がします。磯野さんは、外部資金はあまり入れない、上場しないことを選択されてきていますが、既存の上場制度そのものがサスティナブルな社会の構築に向いていないと考えていらっしゃるのでしょうか。

磯野:今のままでは難しいのではないかと感じています。たとえば、大手企業に勤める妻が加入している企業型確定拠出年金(401k)の資料を見たところ、企業の価値について現在の数字しか示されていないのです。企業価値はあくまで将来利益を割り引いて評価されるものですが、そこには社会にどう向き合っているのか、どれくらいかけがえのない存在なのかが価値として反映されていない気がします。社会への向き合い方がカッコイイと思われ評価されるような文化になっていく必要があります。

しかし、世界を長期的な視野に立って俯瞰している人は、地球が存続の危機にあることを認識していますし、そういう人が世界的に増えているという実感はあります。私は、「カルチャーはデモグラフィー(人口統計)とジオグラフィによって作られる」と思っており、世界196カ国を見据えているのもそのためです。

日本は島国なので、デモグラフィーとジオグラフィが変わりにくい国ですし、デモグラフィーも逆ピラミッドになっています。一方、世界的には、若い世代が消費力の中心に位置しています。当社も世界的には、「ミレニアル世代のためのエネルギー会社」と言われていますし、実際、世界の人口の約4分の1がミレニアル世代であり、私たちもそこをターゲットにしています。

この世代の方々が、新しい概念を社会に提案できれば、社会も政治もビジネスも変わっていくのではないかなと思っているからです。そして、日本も世界の変化に伴い変わっていくのだと思います。だからこそ、今は日本に依存しないビジネスモデルを作ろうとしているのです。

一方、日本においては、カルチャーに落とし込むまでの努力が足りていないので、それもやり切りたいと思っています。後継者の育成も非常に大事で、人の心を動かすことができる人たちと本気で取り組む必要があると感じています。

例えば、グローバルのプロジェクトでは、アートプロジェクトも進めています。先日、MOU(覚書)を交わしたアフリカでのプロジェクトでは、世界的に有名なデンマーク人の現代アーティスト、オラファー・エリアソンとコラボレーションします。日本の直島にも彼の作品があります。そういった世界のトップの表現者たちと話していると、やり方や表現方法、つまり山の登り方が異なるだけで、みんな目指しているゴールは同じと感じています。

ー確かにおっしゃる通りですね。我々は、国内でしか活動を展開できていませんが、ピンとくる人とは、事業内容は異なっていても、目指しているものが似ていると感じます。

磯野:特に、気候変動に関しては、海外の方との方が繋がりやすいですね。日本で行動を起こす方は、海外に比べて圧倒的に少ないという印象をもっています。

 

同じパーパスをもつ約5%の人同士のつながりが世界を動かす

ー磯野さんの感覚は特に欧州の方々の感覚とマッチすると感じる一方で、米国や中国は逆の方向に向かっているようにも見えます。「世界が二極化していっているのではないか」ということです。この点に関してはどのような考えをおもちでしょうか。

磯野:まず、当社は大企業ではないので、規模の経済を追求しなくても事業が成り立ちます。その上で、国や人種に関係なく、同様のパーパスをもっている人が世界中に5%いたとして、それらをつなぎ合わせるだけで、大きな勢力になり、世界を動かすことができます。

現在世界が二極化しているように見えるのは、新陳代謝の途中だからではないかと考えています。国家という概念も弱くなってきていますし、物理的な場所だけで人が繋がる理由がなくなってきていると思っています。例えば、長野県では、独自のカルチャーとコミュニティができていると私は感じますが、そこの何らかの理由があるからで、それが大事なのだと思います。

ー仮に5%のつながりができたとしても、残りの95%は従来型じゃないですか。その割合もいずれ変わってくるのかも知れませんが、過渡期をどう生き抜けばよいと思われますか。たとえば、エネルギーの話でいえば、これまで、電力会社が送電網の整備、維持、管理に巨額の費用をかけてきました。一方、今後は、ローカルのコミュニティ同士の配電網がつながっていくという流れが加速していくとします。そうすると、どこかで折り合いがつかなくなることが予想されます。この件に関しては、どう思われますか。

磯野:先進国と発展途上国では少し違うと思いますが、日本に関して言えば、私が大事にしているのは、自然の摂理です。これを言い換えると、“循環”になります。海があり、山があり、川があり、水が循環しているから綺麗な地球が保たれています。しかし、現在の日本の多くの組織は、その循環が滞ってしまっている状態にあると思います。そこには、新陳代謝が必要です。今後は、自然の摂理により地方から徐々に中央集権型が崩れていくと考えています。カルチャーとコミュニティがある地域では、エネルギーだけでなくすべてのことを地域で行うというようになります。

ただし、自然の摂理だけに任せると、地球は必ずしも良い方向にはいかず、場当たり的な都市ができてしまいます。ですので、最初に、サスティナブルな都市計画を明確に打ち出すべきです。そのためには、「こういう街にしたいんだ」という地域としての強いアイデンティティが不可欠なのです。

ー今回は非常に興味深いお話をどうもありがとうございました。改めて、我々の思想と共通する部分が多いと感じましたので、これからもよろしくお願いします。

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